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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和44年(ワ)83号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、<証拠>によれば、原告は昭和三九年六月宅地建物取引業を開業し、昭和四〇年六月以降は飯塚市西町の現事務所において「飯塚不動商事」の商号で営業を継続していること、右商号の登記手続を昭和四四年三月二六日なしたことが認められ、一方<証拠>によれば、被告は昭和四四年一月一六日福岡県知事より「飯塚不動産斡旋所」の名称で宅地建物取引業者の免許を受け、同年三月五日から飯塚市吉原町の旧自宅において右商号で、その看板をかかげて右取引業を開いたことが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

二、そこで原告の商号である「飯塚不動産商事」と被告の使用商号「飯塚不動産斡旋所」とが類似商号であるかどうかを検討するに、右類似性を判断するには、商号自体の全体としての対照は勿論のこと、さらに一般人をして彼此の区別ができず混同誤認を生ぜしめるかどうか、特にその主要部分、略称、通称等の同一ないし類似性を考慮すべきであるところ、本件における各商号を、その全体を観察するとき、「飯塚不動産」という部分において全く同一で、しかもこの部分は各商号の主要部分にも相当するというべきで、その下に商事、商社、商会等いずれの名称を付加するかはさして重要視すべきものではないと理解すること。これに加え<証拠>によれば、原告の同業者仲間あるいは知人においては、原告は「飯塚不動産」と略称され、また被告が開業後は被告の事務所を原告の出張所と誤認する者もあらわれたことが認められ、右の諸事実ならびに原告の営業内容が大部分一般人の顧客を相手にするものである点に照して、右被告の商号は原告のそれと、全体的観察においてのみならず、一般取引上からも一般人をして混同誤認せしめる虞れあるものと十分推認しうるところであるから、右各商号は商法二〇条一項にいわゆる類似の商号であるものと判断する。

三、しかしながら<証拠>によれば、被告はその営業開始間もなくの昭和四四年三月二二日開かれた宅地建物同業組合筑豊地区の組合員総会において、原告及び右組合役員らから被告の商号は原告のそれと間違いを起しやすいので商号を変更するように要請され、いつたんはこれを拒絶したものの、その後裁判所への調停申立などの曲折を経た後、結局は右組合役員らの助言や示唆により、「飯塚宅地建物斡旋所」という名称に商号を変更することに決意し、右変更要請のあつた一月後の同年四月二一日、福岡県知事宛に右のように商号を変更する届を提出し、これが受理されたこと、同年六月二三日右変更後の商号たる「飯塚宅地建物斡旋所」の商号登記手続をし、遅くともその頃には前記看板も右のように書換えていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の諸事実によれば、被告は本件口頭弁論終結時においては既に「飯塚不動産斡旋所」の商号を使用しておらず、使用する意思もないこと明らかである。よつて、原告の被告に対する本訴請求中被告が類似商号を使用している旨主張してその商号使用の差止を求める部分については、その余の点を判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

四、次に原告の損害賠償請求権につき判断する。

原告の本件損害賠償の請求は、被告の原告に対する商号使用利益の侵害により生じた財産的、精神的損害の賠償を求める趣旨とみられるが、そもそも不法行為による損害賠償請求権の発生にはその侵害行為に違法性あることを要し、右違法性は被侵害利益と侵害行為の態様との相関関係によつて判断さるべきであるところ、商号は、それ自体に営業主体の信用、名声等が化体され、商人はかかる商号使用により営業活動上の利益を博しうる関係にあるから、商号使用による営業活動は商人等にとつて保護に値する利益というべきで、これが侵害されることによつて財産的精神的損害が生ずることあるは勿論であるが、一方現代社会における営業活動は自由競争を立前とするものであり、商法二〇条一項の規定に照しても、商号に対する侵害は不正競争の目的があるなどその反社会的目的、態様をもつてなされた侵害、平たくいえば他人の商号と混同を生ずるような商号を選択使用することによつて、その他人の築き上げた名声、信用、販売組織等を勝手に利用し、もつて不法な利益を得んとする目的をもつてする場合等についてのみ違法性あるものと解するを相当とする。

これを本件についてみるに<証拠>によれば、被告は昭和三二年頃より従前の住居地飯塚市吉原町で「飯塚石炭分析所」の名称で石炭分析業を営んでいたが、石炭産業の衰退に伴つて将来の生業を思慮し、宅地建物取引業との兼業を考えてその許可を受け右事業を開始したこと、右のとおり従前から「飯塚石炭分析所」という名称を使用していた関係で、宅地建物取引業の商号を「飯塚不動産斡旋所」という商号に選定したこと、被告としては原告から類似商号として抗議を受けた頃にも、同一市内であるとはいえ、その業種柄、町が異るからさして競争関係にはならず、変更するに及ばないと認識していたこと等の事実が認められ、以上の認定を左右する証拠はない。右認定の諸事実に加え、「飯塚」は被告の居住市名、「不動産」はその営業内容を表示する一般名称で被告が「飯塚不動産斡旋所」の名称を選定するのはさして奇異でもないこと、原、被告の営業内容が宅地建物取引業中斡旋業を主体とするものであり、右斡旋業は概ね小規模且つその営業圏も地域的に限られたものであること、営業主体の信用がとりたてて重視される業種ともいえず、従つて原被告間に類似商号だからといつて特段に競争関係が生ずるといえないこと、原告の営業は、当時開業後四年余りで、原告本人尋問の結果によれば、年間五ないし六件位の宅地建物の売買斡旋があり、これが収入の大部分を占め、その他賃貸借の斡旋料収入がある程度であることが認められ、同業者に比して特段営業規模が大きく、社会的評価、信用が厚いとはいえず、且つまた一般に広くその商号が周知となり、他人がその商号を使用することによつて特に利益を博しうるものと認めうるような証拠も他に存在しないこと、この種業者には類似商号が往々にしてあることは証人福田小太郎の証言によつても明らかであること、ならびに前判示のとおり被告は類似商号として非難を受けるや一月余りで直ちに自らの商号の変更をなしていること、以上の事実を勘案するとき、被告において、原告の商号と類似混同を生ぜしむる商号を使用することによつて、原告の商号ないし営業活動によつてもたらされる諸利益を利用し、自巳の営業活動上不法の利益を得る目的をもつて、「飯塚不動産斡旋所」なる商号選定をなしたものでなく、不正競争の目的その他反社会性ある目的、態様をもつて右商号を使用したものではないと解するのが相当である。尤も、被告は原告と同一市内で右類似商号を使用しており<証拠>によれば、被告は昭和二六年頃宅地建物取引主任の資格を得て昭和四一年から四三年まで同市内の宅地建物取引業者の取引主任をしていたことが認められ、右事実からすれば、被告は原告が同市内で前記「飯塚不動産商事」の商号で営業をしていたことを知つていたものと推認することができるが、前認定の諸事実に照らし、右推認事実のみをもつてしてはいまだ被告に不正競争その他違法とさるべき目的、手段が存在したものと認めるに足りない。そして<証拠>によれば、原告の商号登記手続は、被告が前記類似商号で営業を開始した直後、これに異議を申立てるためとられたものであることが認められることも考えると、結局被告の本件類似商号の使用には違法性がないものと解するのが相当である。

従つて、本件損害賠償請求部分についてもその余の点を判断するまでもなく理由なきものといわねばならない。(川本隆)

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